健康保険を使ってもらえないかという打診

保険会社からの「健康保険を使ってもらえないか」という打診

向井弁護士

 脳に損傷を負うような重大な事故に遭った場合、被害者のご家族は被害者の安否を不安に思い、また、付添世話など目まぐるしい状況に立たされることになると思います。

 そのような状況下で、交通事故加害者側の保険会社が、自由診療だと治療費が高額になることから「健康保険を使ってもらえないか」といった打診をしてくると、憤りを覚える方もいらっしゃいます。

保険診療のメリット

 しかし、過失割合が少しでも問題となる可能性のあるケースでは、健康保険を使って診療したほうが被害者にとっても有利です。

 例えば、被害者の過失が2割の場合だと、治療費が500万円であることを前提とした場合、自由診療だと被害者の負担額は100万円となりますが、保険診療(3割負担)をしておけば、負担額は30万円(500万円×3割×2割)で済み、70万円の差が生じます。

 そして、重大な交通事故の場合は、意識不明の状態にある被害者の言い分が警察の記録等に反映されないことなどから、過失割合が問題となりやすいケースです。

 したがって、被害者の過失割合の観点からすると、保険診療をしておくことが無難です。

自由診療のメリット

 だた、自由診療のメリットは、保険適用外の新薬、最先端の医療を受けられることにあります。

 脳損傷の場合でも、通常の治療は保険適用の範囲内ですから、基本的には保険診療でも良いですが、最先端医療を受けさせたいと希望されるご家族もいらっしゃるでしょう。

 最先端医療には、健康保険を適用することができないものがあり、過失割合が問題ない場合、過失を考慮しても、最先端医療を受けさせたいという場合などには、自由診療で治療することになります。

自由診療か保険診療か

 病院側は、通常、患者からの積極的な申し出がない限り、自由診療として取り扱います。

 健康保険を使うか否かは、以上のように、過失が認められる可能性を考慮する一方で、どのような治療を希望するか、その治療は健康保険の適用範囲内かを把握したうえ、決定するのがベストです。

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